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山口地方裁判所 昭和51年(レ)22号 判決 1977年3月03日

控訴人 田中勉

被控訴人 山田節生

右訴訟代理人弁護士 西岡昭三

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

控訴人は適式な呼出しを受けながら当審において最初になすべき口頭弁論期日に出頭しなかったが、陳述したものとみなした控訴状には「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求める旨の記載があり、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

第二当事者の主張

一  被控訴人の請求原因は原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

二  控訴人の請求原因に対する認否と反論

1  請求原因1項の事実は認める。

2  同2項の事実のうち、控訴人(被告)が被控訴人(原告)の妻山田美鶴から金二万円を受取ったことは認めるが、その余は否認する。控訴人は訴外会社の代表者として被控訴人に対し昭和四五年八月二九日いすずトラック一台を代金四〇万円、同日頭金一五万円、同年一〇月より昭和四六年二月まで毎月二〇日限りに金五万円を五回に分割して支払うとの約定で売り渡したもので、右金二万円は右代金の支払いとして受領したものである。

3  同3項のうち(一)の事実は認めるが、その余は争う。控訴人は訴外会社の代表者として被控訴人に対し右2項記載の売買契約に基く残代金三八万円の支払いを求めて右3項(一)前段記載の山口地方裁判所岩国支部に訴えを提起したものの、審理が休止になったものと放置しているうち右訴訟を失念し、同裁判所において請求棄却の判決がなされたことを知らないまま、再び山口地方裁判所徳山支部に訴えを提起したものである。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1項の事実、同2項のうち控訴人が被控訴人の妻山田美鶴から昭和四五年八月二九日金二万円を受取った事実及び同3項(一)の事実は当事者間に争いがない。

二  前記当事者間に争いのない事実並びに《証拠省略》によれば請求原因2項(金員騙取)記載の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

そうすると控訴人の右行為は被控訴人に対する不法行為であることは明らかであるから、控訴人は被控訴人に対しその損害である金二万円を賠償すべき責任がある。

三  訴外会社が昭和四六年三月頃被控訴人主張のとおり山口地方裁判所岩国支部に対し被控訴人を相手に売掛代金請求の訴えを提起したことは当事者間に争いがないところ、右二項認定事実からすると控訴人においてその当時同人主張の売買契約が成立していないことを知っていたものと推認され、これに反する控訴本人尋問の結果は措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

次に《証拠省略》によれば、控訴人は訴外会社の代表者として前記訴訟の審理に数回立会い、昭和四七年二月九日には右裁判所から控訴人主張の売買契約は成立していないことを理由として訴外会社の請求を棄却する旨の判決正本の送達を受けたが、控訴の申立をせずにそのまま放置し、同判決が確定した後三年余を経た昭和五〇年五月一二日再び訴外会社を代表して山口地方裁判所徳山支部に同一訴訟物についての売掛代金請求訴訟を提起したことが認められ、右認定に反する証拠はない。右認定事実によれば、控訴人は右岩国支部における訴外会社敗訴の確定判決の存在を知りながら再び代表者として徳山支部に訴えを提起したものと推認される。控訴本人尋問の結果中、前記敗訴判決のあったこと乃至その正本の送達を受けたことを知らなかったとする部分は前掲各証拠に照して措信できず、他に右推認を左右するに足る証拠はない。

そうすると控訴人が代表者として被控訴人を相手に、控訴人主張の売買契約が成立していないことを知りながらなした岩国支部に対する訴え提起や、訴外会社敗訴の確定判決の存在を知りながらなした徳山支部に対する訴え提起は、いずれも被控訴人に対する請求の理由なきことを知ってなした不当訴訟であり、控訴人のなした右一連の訴え提起は被控訴人に対する不法行為に該当するので控訴人はその損害を賠償すべき責任がある。

《証拠省略》によれば、被控訴人は従前被告として訴を提起されたことがなかったところ、突如訴外会社からいわれのない前記岩国支部に対する訴訟を提起され、仕事を休んで訴訟の準備をなし、当事者本人として出頭して訴訟を追行し、勝訴判決を受けたところ、またも訴外会社から徳山支部に対する訴えを提起され、当初は当事者本人として出頭して応訴したが、従前の経過からやむなく西岡昭三弁護士を訴訟代理人に依頼してこれに対処し、手数料として金三万円を支払ったうえ勝訴判決を受けたこと、その間の被控訴人の心痛は相当なものであったことが認められ、右認定に反する証拠はない。右認定事実及び前記訴訟を提起されるに至る間の経緯を考慮して、右精神的苦痛に対する慰藉料の相当額としては金一五万円を下るものでないものと認める。

四  以上によると被控訴人の本訴請求のうち前記二項の金二万円の全額、及び前記三項の弁護士費用金三万円と慰藉料中金一五万円並びにこれらに対する訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和五〇年一〇月二三日以降完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の請求を認容した原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。よって民事訴訟法第三八四条第一項、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 横畠典夫 裁判官 杉本順市 柴田秀樹)

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